

ちょい不良(ワル)、艶女(アデージョ)、洒落金男(リッチーノ)……。独特のセンスで次々と時代をリードする流行語を生み出している岸田一郎氏。そのルーツはどこにあるのか。
華やかなイメージからは、想像できないが、学生時代の岸田氏は実は文学青年。気に入った言葉や四字熟語を見つけては、大学ノートに書きためていた。「意図していたわけではないのですが、結果的にこれが語彙を増やし、言葉への感性を養うことにつながりました」と振り返る。
活字を扱う編集者にとって豊富な語彙は不可欠。言葉のストックが多ければ多いほど、その組み合わせによって新たな言葉が生まれる可能性を秘めている。しかし、自分の持つ語彙量に限りがあるのも事実。そこで「造語を考える時に便利」と岸田氏が評するのが、パソコンの日本語入力システム「ATOK」(エイトック)の連想変換機能だ。
連想変換とは、一つの言葉を入力すると、そこから連想される類語が表示される機能。「幸せ」を例にすると、「幸福」「福祉」「命拾いする」などの候補が表示される。
「中には『犬も歩けば棒に当たる』なんていうものもあります。ここまではなかなか思いつかない。面白い発想が生まれそうだよね」。

- 「英語でお礼状を書くときがあるのですが、日本語を打つだけ で、いろんな英語の表現が表示されるのは便利ですね」。

読者の心に響くフレーズを生み出すには、どうすればいいのだろう。編集者の思いのたけを詰め込むのではなく、読者に伝えるべき情報は何かを見極め、言葉のストックの中からふさわしい造語を編み出す。これが岸田氏の発想法だ。
例えば、岸田氏が発行人を務める『zino』の場合、「ただのお金持ちではなく、お洒落なお金持ちになろう」がコンセプト。だが、そのまま誌面に用いても、読者には気恥ずかしいだけ。雑誌のコンセプトを踏まえつつ、読者をワクワクさせるキーワードということで、「洒落金男(リッチーノ)」が生まれた。
「読者にコンセプトを伝えるには、直球ではなく、潤滑油となる面白いフレーズでなければ駄目。それを生み出すには、雑誌の明確な戦略ラインを描き、ぴったり当てはまる言葉は何かを判断する力も必要です」。
直球の言葉が本当に最適な表現なのか? という反骨精神を抱き、読者を引っ張る新しい言葉を生み出す。それが、岸田氏の考える「言葉を使いこなす、デキる編集者」だ。仮に、自分の語彙が不足していても、ATOKの機能が自分の発想を広げたり、語彙不足を補ったりと、支援してくれそうだ。
ただ、岸田氏は、仕事のためだけに言葉にこだわりを持っているわけではない、とも言う。
「もちろんそれも大事なんだけど、難しい言い回しや四字熟語を巧みに使いこなしている人の方が、カッコイイじゃないですか(笑)。そう思いません?」。
岸田氏の目には、ATOKもカッコよく自己表現するためのツール≠ニ映っているようだ。
■ 岸田 一郎(きしだ・いちろう)氏
フリーライターとして活動した後、世界文化社に入社し、1989年、編集長として『Begin』を創刊。その後も『Car Ex』『Men's Ex』『時計Begin』といった雑誌の創刊編集長を歴任。2000年、主婦と生活社に移籍。01年『LEON』、04年『NIKITA』を創刊。06年、KI&Companyを設立し、代表取締役社長兼CEOに就任。
