

最近は広告の仕事以外に、文章を書く仕事が増えました。いま連載が5本、単発ものも含めると作業的にはかなり多い。でも実は僕、作文が大嫌いで(笑)、一本書くのにすごい時間がかかる。だから、作業をする環境がすごく大事になってきますね。
でも、文章やコンテを考える時って、白い紙を目の前に「よし、書くぞ!」と体勢を整えた途端に、失うものがたくさんありませんか?パソコン画面に白い紙をバーンと出しても、級数設定してどうのこうのとやっていると、まったくドライブしない。最初にがっちりと環境を固めてしまうことが性格的に苦手で…。だから自分であえて環境を壊していきます。なので普段、文章を書く時は布団の上に寝転んでパソコンを打つ。これが一番楽だし、アイデアが出てくるんです(笑)。
これは僕独自のやり方なのですが、執筆にはメールソフトを使います。ある程度まで文章を書いたら、宛先にアドレスを入れて、その人に送信できるようにします。自分にとって原稿(言葉)というものは常に相手があって、沸き上がってくるものなのかもしれません…。なんでメールソフトを使って書いていたのか、意識していなかったのですが、いま話していて気付きました!

CMコンテとエッセイなどの原稿を比較すると、その書き方や発想法は異なりますが、基本的に文章も広告的に考えています。
例えば、「風とロックフェス2007」というイベント名や、サンボマスターの山口君と結成した「ままどおるズ」というバンド名、「風とロック」という社名もそうですが、どれも言葉というよりも“タイトル”なんです。いいタイトルを思いつくと、すごくドキドキしてくる。“音楽フェス”というより、“風とロックフェス”という方が、ドキドキしませんか(笑)?タイトルの持つ力強さやリズム感、それが言葉の力だと思うんです。言葉の持つ意味だけではなく、リズムや感覚をみんなで共有できるようなタイトルをつけたい。それを共有できた時、何かとても面白いものが生まれる気がします。その感じがすごく好きで、最近は文章を書く時もタイトルを先につくって、そこから書き始めます。

以前は小説家が万年筆でサラサラと縦書きするように書かなきゃだめだと思って、手書きしていました。途中まで書いて気に入らないと、また一から書き直したりして…。それで手書きはやめて、パソコンを使うようになってから、「編集」する感覚で文章を書くようになりました。
ちなみに、僕のパソコン画面は文字がものすごく小さいので、よく驚かれます(笑)。というのも起承転結を度々ひっくり返すので、全体が見渡せないとダメ。一面に世界地図を出してアフリカとアメリカを入れ替えるくらいの感覚でやりたいんです。そうやって編集でどんどん組み替えながら最終的に形にする。こういうコラージュ的な書き方も、パソコンだからできることですよね。
いまはいろいろな面で「編集」という作業を行っていますが、簡単に文章を壊したり、起承転結を混乱させたりできる点では、文章を書くのもCMのカットをつなぐのも感覚的に近いものがあります。パソコンを使って書くようになってから、映像をつなぐように文章が組み立てられるので、原稿を書くのもだんだん楽しくなってきました。僕の場合、広告の仕事と原稿執筆、両方をやることによって、そこで得たものをそれぞれにフィードバックしています。それもまた「編集」的で、自分にとっては面白いことになっています。

- 「誤変換恐怖症です。長く打てば打つほど変換ミスの確率があがるという意識があるし、戻りたくないから、逆に僕が気を遣ってしまう。いつも単語、単語、助詞、動詞みたいな感じで相当短く変換しながら、少しずつ進むわけです。なので、ATOKには長い分節でも前後の文脈を解析して正しく変換できる機能があると聞き、「あっ、いいな!」と素直に思ってしまいました。単語ごとに入力していると入力することが目的になりがちですが、それを解消してくれるのは嬉しいですね」

もともと僕は何か思いついたらすぐに人に話すんです。頭の中で考えてまとめたことを検証すると同時に、口に出した時のリズム感やそれによる気持ちよさを試したいというか…。そして、その反応からまた違うアイデアや言葉を得ることが多くあります。こうやってアイデアを転がしながら膨らませていくんです。自分の頭だけで完結してしまうと広がらない。そういう意味では、パソコンも自分とは相反することがありつつも、“頭では思いもしなかったことが機械だからできた”ということはありますよね。言葉の意味をサッと調べたり、似たような言葉を探したり、思いもよらなかった言葉を提示してもらったり…。
先日、CMディレクターの前田良輔さんに声をかけていただき、初めて一緒に仕事をしました。正直なところ、前田さんと僕では作風も含めて絶対に合わない(笑)。だから、声がかかった時、ちょっと驚きました。でも、意外に面白い仕事ができたんです。
これまで僕は“一人広告代理店”といって何でも一人でやることが多くて、それを楽に感じていたけれど、思い切って違うタイプの人とやることで新しいものが生まれることを、その時に実感しました。さらに言えば、自分と相性のよくない人とやるとなおさらいいかもしれない(笑)。今回みたいにディレクターからCDに声がかかるというのは通常ではありえないし、そういう風に流れとか職種が入れ替わるのも面白かったですね。それ以降は、合わないと思っている人と組むことでムズムズする感覚とか、外から受けた刺激による化学反応やヒントがこれまで以上に面白いと思えるようになりました。
これからは、発想やディレクション力さえあれば、一つの職種に留まることなく、アマチュアとしてどんな職種にも参加できる。まさにいま自分は“箭内道彦”という人間をプロデュースするために、ジャンルを問わずにいろいろなことを試しているところです。
■ 箭内 道彦(やない・みちひこ)氏
1964年福島県生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科卒業後、博報堂に入社。クリエイティブ局を経て97年からCMプランナーに転向。2003年、独立。『風とロック』を設立。その後、世界最小の広告代理店『風とバラッド』を設立。05年4月、フリーペーパー『月刊風とロック』創刊。主な仕事に、タワーレコード「NO MUSIC,NO LIFE.キャンペーン」、資生堂「uno お笑い芸人52人CM」、森永製菓「ハイチュウ」、フジテレビジョン「きっかけは、フジテレビ」、富士フイルム「PHOTO IS」など。
