ATOK17 for Windows 開発者インタビュー
「豊かな日本語」をユーザーに役立つ形へ

 「ATOK17 for Windows」の発売にあたって、開発者にお話をうかがいました。ひとつのソフトができるまでは、製品を企画して提案し、それを動かすためにプログラムを作り、それを商品として世に出していく道筋をつける、といった流れがあります。今回お話を聞いた3人は、青田さんが製品を企画・提案し、竹原さんが開発チームを統括、有田さんは変換エンジンのプログラムを実際に作っています。

 日本語入力システムATOKによって、一見機械的には処理できそうにない日本語という言語を、パソコン上でいきいきと表現させよう__そこには、どんな発想があって、いかにして製品化にたどりついたのかを聞いてみました。


三者三様のパソコンとのかかわり
2. 自分の表現力を超える文章を書きたい
3. 究極の日本語表現とは? ATOKの未来は?
YOSHIO TAKEHARA
TOMONORI AOTA
KEISUKE ARITA
1. 三者三様のパソコンとのかかわり

ATOK.com:
 みなさん最新版の「ATOK17 for Windows」の開発に携わっていらっしゃるわけですが、幼いころからパソコンに親しんでいたのでしょうか?

有田圭介(以下、有田):
 中学2年生のときに「富士通FM7」をさわったのが、パソコンとの出会いです。ハードディスクやフロッピーディスクはついてなくて、カセットテープにデータを保存する機種でした。メインメモリも数十KB程度で、今思うと隔世の感がありますね。ブロックくずしなどの簡単なプログラムを自分で作って、意図どおりに動くと、楽しい!!って思っていました(笑)。ゲームはあまりやらなくて、というのも、僕は作る方に興味があって、遊ぶのはそれほどでもないんです。その気持ちは、今につながっていますね。

青田智徳(以下、青田):
 僕はMSXというゲーム機ですね。その後「NEC PC-8001 mk2」を手に入れて、これは今でも家にあります。ゲーム機の延長でさわっていたので、自分でプログラムするということはあまりしませんでしたね。有田さんとは反対に、もっぱら既存のゲームを楽しむ方でした。
 大学では国文学を専攻していて、レポートを書くときに、意図と違う変換をするので、なんとかならんかと思っていました。作る側というより、使う側として有能な変換ソフトが欲しいと思っていて、ないなら作ろう、という思いで今にいたっています。

竹原宗生(以下、竹原):
 大学の授業で、Basicなどを組んだ記憶はありますが、本格的にパソコンにさわったのは入社してからです。ゲームもほとんどやったことがないし、大学では経済学を勉強していましたし、実はパソコンには疎かったんですよ(笑)。ですから入社当時の社員研修は苦労しましたねえ。子供のころは、オーディオのスピーカーを作ったり、のこぎりを使って何かを作ったりすることが好きでした。それが高じて、自分の手で、ものを作る仕事がしたかったんです。


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2. 自分の表現力を書きたい



ATOK.com:
 続いて製品の話を聞かせてください。「ATOK17 for Windows」の新機能に「連想変換」がありますが、これはどういったことを実現してくれるのでしょうか?

青田:
 従来のかな漢字変換では、意図した漢字が出てくるだけでした。これだけだと物足りないので、自分が意図しているものから、同じ意味をもった別の表現も出せると、文章の幅が広がっていいかな、というところから始まりました。
 特にメールのような短い文章の中に同じ単語が何度も出てくると、語彙が少なくてかっこ悪いじゃないですか。ちょっと見栄をはりたいわけです(笑)。そこで「言い換え表現」をATOKで提案できないかと、だいぶ前から考えていたんです。

ATOK.com:
 コンピュータの機械的処理というより、すごく人間的な発想ですね。これをプログラムでどう動かすのでしょうか?

青田:
 「美しい」という言葉と似た意味の言葉を探し出すプログラムがあって、それは本質的にはコンピュータがいちばん得意とする「大量のデータを、人間にはできない速度で計算して処理をする」ことになります。

有田:
 根本は「人間の発想をコンピュータが助ける」というところです。なんか良い言い方が思いつかないなあ、というときに、同じような意味の単語がずらっと出てきて、その中から自分のしっくりくるものを選んでもらいたい。すべての単語に対して出てくるわけではないですが、たとえば「美しい」という言葉だったら、変換候補が「可憐」「愛らしい」「かわゆい」「可愛らしい」などの候補が出てきます。

竹原:
 表現を豊かにする助けとして、言葉の正しい意味がすぐわかるように「電子辞典検索」という機能もあります。ATOKには、大修館書店発行の『明鏡国語辞典』と『ジーニアス英和辞典』のデータを搭載していて(※)、画像で説明した方がわかりやすい項目は、小さいウィンドウが出て画像が表示されたり、英語の発音が音声で聞けるという機能です。連想変換候補にも、電子辞典検索がかけられるようになっています。
※電子辞典セットのみ

ATOK.com:
 開発者チームの基本となる発想は、どのようなものだったのでしょうか?

青田:
 思いついた文章を忠実に再現する上で、ソフトの技術は発揮されていたのですが、自分の意志を表現したいときに、自分の語彙力や表現力以上のものはなかなか出てきません。僕たちがATOKでサポートしたいのは、自分の表現力をちょっとでも超える、さらに良い文章にするということです。

有田:
 文章を書くからには読み手がいるわけで、大事なコミュニケーションの手段となっていると思うんです。本当の自分の気持ちを、より上手に伝えたいけど、書いても書いても若干ずれてる…、そういうもどかしさを解消したいですね。人に文章を読んでもらうことを仮定したとき、たとえばWebに自分の日記を公開しているときは、ちょっと気取ったりしたいものです。そんなときに、使って欲しいですね。

ATOK.com:
 ソフトウェア開発というとプログラムが主の世界だと思いがちですが、お話を聞いていると、日本語表現のあくなき追及ですね。その思い入れは、どこからくるのでしょう?

青田:
 ふだん使っているのが日本語だから、でしょうか。たとえば、竹原さんにメールを1通書けば、僕の仕事をすべてやってくれる、くらいの精度が理想です(笑)。

竹原:
 自分が使いたいものを作る、というのが動機ですね。仕事の相手に、できないヤツだなと思われてしまうような、恥ずかしいメールは送りたくないじゃないですか。それをATOKでなんとかしたい。

有田:
 特に我々開発者は文章を書くのが苦手なものなので(笑)、自分たちのために作っているのかもしれません。


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3. 究極の日本語変換とは?ATOKの未来は?

ATOK.com:
 これからもATOKの開発は続いていくと思いますが、みなさんにとって、究極の日本語入力システムとは、どんなものですか? あるいは、ATOKが目指している未来はどんなものでしょうか?

有田:
 僕個人の課題としては、バランスですね。ATOKには、さまざまな変換機能がありますが、どれかひとつだけ突出していて、他の部分がおろそかになると、トータルとしては使いにくくなります。校正支援機能の指摘項目を補うのか、変換精度のさらなる向上を目指すのか、連想変換のような通常の変換とは異なる機能を開発するのか、何に、どれだけ力を入れていくのかということを、バランスよくやっていきたいです。

青田:
 僕は、まず最初のユーザーでもある自分が心から欲しいと思えるものを作りたいです。ですから、自分が欲しいものを、できるかぎりATOKに反映していきたいですね。ATOK17を1年くらい使いこんだら、また「こんなの欲しい」となるでしょうから、思いはつきないでしょう。ATOKは、何かの操作に特化したソフトではなく入力するためのもの、つまり万人向けのものです。的を絞れないという難しいものですが、利用場面を広げていくことが課題ですね。

竹原:
 日本語を使う、すべての人が使って欲しい、というのが究極ですね。使いやすく、誰の手にもなじむ、そして1回使うと手放せない、そういうものを作っていきたいと思っています。

ATOK.com:
 ありがとうございました。


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