ATOK.com: みなさん最新版の「ATOK17 for Windows」の開発に携わっていらっしゃるわけですが、幼いころからパソコンに親しんでいたのでしょうか? 有田圭介(以下、有田): 中学2年生のときに「富士通FM7」をさわったのが、パソコンとの出会いです。ハードディスクやフロッピーディスクはついてなくて、カセットテープにデータを保存する機種でした。メインメモリも数十KB程度で、今思うと隔世の感がありますね。ブロックくずしなどの簡単なプログラムを自分で作って、意図どおりに動くと、楽しい!!って思っていました(笑)。ゲームはあまりやらなくて、というのも、僕は作る方に興味があって、遊ぶのはそれほどでもないんです。その気持ちは、今につながっていますね。 青田智徳(以下、青田): 僕はMSXというゲーム機ですね。その後「NEC PC-8001 mk2」を手に入れて、これは今でも家にあります。ゲーム機の延長でさわっていたので、自分でプログラムするということはあまりしませんでしたね。有田さんとは反対に、もっぱら既存のゲームを楽しむ方でした。 大学では国文学を専攻していて、レポートを書くときに、意図と違う変換をするので、なんとかならんかと思っていました。作る側というより、使う側として有能な変換ソフトが欲しいと思っていて、ないなら作ろう、という思いで今にいたっています。 竹原宗生(以下、竹原): 大学の授業で、Basicなどを組んだ記憶はありますが、本格的にパソコンにさわったのは入社してからです。ゲームもほとんどやったことがないし、大学では経済学を勉強していましたし、実はパソコンには疎かったんですよ(笑)。ですから入社当時の社員研修は苦労しましたねえ。子供のころは、オーディオのスピーカーを作ったり、のこぎりを使って何かを作ったりすることが好きでした。それが高じて、自分の手で、ものを作る仕事がしたかったんです。 |
ATOK.com: 続いて製品の話を聞かせてください。「ATOK17 for Windows」の新機能に「連想変換」がありますが、これはどういったことを実現してくれるのでしょうか? 青田: 従来のかな漢字変換では、意図した漢字が出てくるだけでした。これだけだと物足りないので、自分が意図しているものから、同じ意味をもった別の表現も出せると、文章の幅が広がっていいかな、というところから始まりました。 特にメールのような短い文章の中に同じ単語が何度も出てくると、語彙が少なくてかっこ悪いじゃないですか。ちょっと見栄をはりたいわけです(笑)。そこで「言い換え表現」をATOKで提案できないかと、だいぶ前から考えていたんです。 ATOK.com: コンピュータの機械的処理というより、すごく人間的な発想ですね。これをプログラムでどう動かすのでしょうか? 青田: 「美しい」という言葉と似た意味の言葉を探し出すプログラムがあって、それは本質的にはコンピュータがいちばん得意とする「大量のデータを、人間にはできない速度で計算して処理をする」ことになります。 有田: 根本は「人間の発想をコンピュータが助ける」というところです。なんか良い言い方が思いつかないなあ、というときに、同じような意味の単語がずらっと出てきて、その中から自分のしっくりくるものを選んでもらいたい。すべての単語に対して出てくるわけではないですが、たとえば「美しい」という言葉だったら、変換候補が「可憐」「愛らしい」「かわゆい」「可愛らしい」などの候補が出てきます。 竹原: 表現を豊かにする助けとして、言葉の正しい意味がすぐわかるように「電子辞典検索」という機能もあります。ATOKには、大修館書店発行の『明鏡国語辞典』と『ジーニアス英和辞典』のデータを搭載していて(※)、画像で説明した方がわかりやすい項目は、小さいウィンドウが出て画像が表示されたり、英語の発音が音声で聞けるという機能です。連想変換候補にも、電子辞典検索がかけられるようになっています。 ※電子辞典セットのみ |
ATOK.com: これからもATOKの開発は続いていくと思いますが、みなさんにとって、究極の日本語入力システムとは、どんなものですか? あるいは、ATOKが目指している未来はどんなものでしょうか? 有田: 僕個人の課題としては、バランスですね。ATOKには、さまざまな変換機能がありますが、どれかひとつだけ突出していて、他の部分がおろそかになると、トータルとしては使いにくくなります。校正支援機能の指摘項目を補うのか、変換精度のさらなる向上を目指すのか、連想変換のような通常の変換とは異なる機能を開発するのか、何に、どれだけ力を入れていくのかということを、バランスよくやっていきたいです。 青田: 僕は、まず最初のユーザーでもある自分が心から欲しいと思えるものを作りたいです。ですから、自分が欲しいものを、できるかぎりATOKに反映していきたいですね。ATOK17を1年くらい使いこんだら、また「こんなの欲しい」となるでしょうから、思いはつきないでしょう。ATOKは、何かの操作に特化したソフトではなく入力するためのもの、つまり万人向けのものです。的を絞れないという難しいものですが、利用場面を広げていくことが課題ですね。 竹原: 日本語を使う、すべての人が使って欲しい、というのが究極ですね。使いやすく、誰の手にもなじむ、そして1回使うと手放せない、そういうものを作っていきたいと思っています。 ATOK.com: ありがとうございました。 |