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日本語こだわり調査団

生きた日本語を徹底調査!ATOKのこだわりはこんなところにも。

快適な使い心地を追求するATOK。そのためには、時代とともに変化する“ことば”を調査することが不可欠です。ATOKでは、継続して調査を行って動向を把握し、製品作りに反映させています。

「変わりゆく日本語の実態」調査結果 発表

今回は、「慣用句の使い方やことばの意味」「日常生活で使う名詞」にフォーカスして実態を調査。アンケートの調査結果は、日本大学文理学部国文学科 荻野綱男教授に解説いただきました。

荻野綱男 <日本大学文理学部国文学科教授、ATOK 監修委員会メンバー>

1952年12月14日(赤穂浪士討ち入りの日)生まれ。日本語学の中でも特に、社会言語学・敬語研究・コンピュータ言語学・計量言語学などを中心に研究している。1997年よりATOK監修委員会に参加。

「変わりゆく日本語の実態」調査総括

過去70年を振り返ると、ほぼ「戦後」ということになる。この時代は新聞やテレビといったマスコミが発達し、全国どこにいても情報を得ることが可能になった時代であった。

特に昨今では、PCやスマホなど情報機器の発展、TwitterやFacebookなどSNS利用者の急増で、新語の拡散・浸透が早まったように感じる。だが、今回の調査で明らかになったのは、言語変化は意外にもゆっくり進行する、という点である。

慣用句は日常的に使用することが減少しているため、大きく誤用の修正がなされることもなく、定着が見られる。昨今よく目や耳にする新しい言葉の意味や単語も、ドラスティックな変化を見せるわけではなく、徐々に浸透する傾向を見せている。また、比較的変化が早いと思われるファッション用語も、子供のころから言い方が変化したという人は、各世代で全体の約40%に留まり、子供のころに収得したものを大人になってからも使い続けることの裏付けとなっている。

確かに新語は、限定されたメディア内では急速に拡散する傾向が見られる。新語は日々多くのことばが誕生するが、それが流行を超えて一般化する数も限定的である。それらを見ても、ことばが各世代のマジョリティに浸透するまでには時間がかかると考えられる。

【調査実施詳細】
調査期間:2012/1/12(木)〜1/19(木)
調査方法:インターネット調査(Fastaskを使用)
回答数:3,104件[内訳 10代:444、20代:425、30代:448、40代:448、50代:451、60代:715、70代以上:173]

■「怒り心頭に発する」:「達する」と誤って覚えている人は、半数以上
■「上を下への大騒ぎ」:正しく言える人が30代以下から大きく減少

Q1「本当に頭に来る」というときに「怒り心頭に〜」という言い方がありますが、あなたは「〜」の部分にどんな言葉を使いますか。

Q2「上〜下への大騒ぎ」という言い方がありますが、「〜」に入る言葉は何でしょうか。

正しい「発する」は、高齢者を中心に回答されるだけで、多数派は「達する」になってしまった。10代には「こういう言い方をしない」が多く、この種の慣用句が使われなくなっている現状を反映している。

とはいいつつも、実は、予想外に年齢差が小さい。年齢差の多くは、子供のころ(言語形成期に)習得したものを大人になってからも使い続けるためで、つまり、過去に起こった言語変化を示す場合が多い。慣用句の構成の変化は、常識的には、数十年程度で変わっていくことが多いのではなかろうか。ということは、10代から70代以上までを示せば60年にも渡る言語変化が観察できるはずである。60年経って、比率がやや変わった程度でしかないというのは、興味深い。

考えられることの一つとして、「怒り心頭に達する」という間違った言い方が多数派になり、日本の中で、ある種、落ち着いてしまって、もう変化を起こす力が残っていないということである。正しい言い方「発する」も2割前後まで落ち込んでしまえば、今さら復調するはずもない。しかし、一部の人は規範意識を持ち、正しい言い方を残そうとしているようである。そのような奇妙なバランスが取れた状態になり、大きな年齢差(進行中の言語変化)にはならなかったのではないか。

「上を下への大騒ぎ」も、正しい言い方「を」は、高年層に多く、若年層にかけて減り続けている。これも慣用句が使われなくなってきている例といえる。

■「こだわる」:最近使われ始めたポジティブな意味も、各世代に浸透

Q3「こだわる」という言葉の使い方で、あなたが正しいと思う意味はどちらですか?

ネガティブな意味が本来であるが、最近はポジティブな意味で使うようになってきた。グラフを見ても、高年層に「ネガティブ」が多く「ポジティブ」が少なく、若年層に「ポジティブ」が多く「ネガティブ」が少ないことが見てとれる。

しかし、このグラフも、意外に年齢差が小さい。もっと大きな年齢差が現れてもよさそうなのに、なぜだろうか。

このグラフでは「両方正しい」が実はかなり多く、30代では約40%を占めている。つまり、ネガティブの意味がポジティブの意味に変化したというのではなく、ネガティブの意味が(ポジティブを含めて)「両方」になったというわけである。
意味がまったく変われば、人々は「変化」を実感するだろう。しかし「両方」ということは、元々のネガティブの意味も含まれるわけで、それはつまり大きな「意味変化」とは感じられず、しだいに「両方」が増えてしまったということだろう。

このような、ある種の「意味拡大」のような変化なので、気づかれにくい、ゆっくりとした変化になるのではなかろうか。

■「ミルク入りコーヒー」:「カフェラテ」と言う人は少数派

Q4「ミルク入りのコーヒー」を何と言いますか。普段最もよく使う言い方を答えてください。

ミルクコーヒーからカフェオレへの変化がわかる。1952年生まれの私が子供のころ、カフェオレという言い方は聞いたことがなかった。フランス語なので、しゃれた飲み物というニュアンスがあり、田舎ではカフェオレが存在しなかったのかもしれない。そんなことも考慮すると、もっと大きな年齢差があってもよさそうだと思う。

しかし、最近は、カフェオレという言い方が一般化してきて、70代以上の高年層にも広がってきているととらえるべきだろう。

イタリア語のカフェラテは、新しい言い方なので、若年層に多く出るはずだが、グラフではそうなっておらず、各年齢層に少しずつ現れる。新しい言い方が全世代に少し侵入している状況というべきか。

■「片足ずつ入れてはく洋服のボトムス」:各世代とも一般的な言い方は「ズボン」

Q5「片足ずつ入れてはく洋服のボトムス」を何と言いますか。普段最もよく使う言い方を答えてください。

Q6「片足ずつ入れてはく洋服のボトムス」の過去の言い方についてお伺いします。Q5で回答した現在最もよく使う言い方は、以前の言い方と比べて変わりましたか?(例えば、子供のときは別の言い方をしていた、など)

Q7「片足ずつ入れてはく洋服のボトムス」の過去の言い方についてお伺いします。Q6で「以前から言い方が変わった」と答えた方は、言い方が変化したと思うおおよその時期を教えてください。

Q8「片足ずつ入れてはく洋服のボトムス」の過去の言い方についてお伺いします。Q6で「以前から言い方が変わった」と答えた方は、以前使っていた言い方を教えてください。

Q7・Q8のグラフは「言い方を変えた人」だけを抽出して書いたものなので、Q5・Q6の全員のグラフと読み取り方を変えなければならない点に注意が必要である。

このグラフでは、「ズボン」が各世代で多く、つまり、言い方を変えた人は「ズボン」から「スボン以外」に変えたということである。「ズボン以外」というのは、Q5のグラフを見れば「パンツ」が多いということになる。つまり、ズボン→パンツの変化が各年代に見られることになる。

50代〜70代以上では、「スラックス」という回答も目につく。「スラックス」から何に変えたのかを見れば「ズボン」か「パンツ」である。どちらなのかを確定するには別の集計結果が必要であるが、Q5の現在の言い方のグラフからは「ズボン」が多そうである。つまり、スラックス→ズボンということで、(一部ではあるが)「ズボン」が中高年層で復権しているとみられる。

10代〜40代では、昔の言い方で「パンツ」もかなりある。Q5のグラフによれば、この世代の人は現在の言い方が「ズボン」か「パンツ」が大半であるから、「パンツ」から言い方を変える場合は「ズボン」でしかありえない。つまり、若い人ではパンツ→ズボンということで、「ズボン」が復権しているということになる。

これらの変化を総合すると、以下のようになる。

どの世代でも、ズボン→パンツの変化が多い。50代以上では、一部にスラックス→ズボンが見られ、40代以下では、一部にパンツ→ズボンが見られる。パンツとズボンの関係は双方向的な変化であることがうかがえる。

このように、ズボンが復興する傾向を示すせいで、Q5の現在のボトムスの言い方のグラフで「ズボン」の比率が世代によってあまり変わらないのであろう。本来ならば、「ズボン」は古い言い方であるから、若年層では減少することになって当たり前のはずが、そうはなっていないということである。

ATOKではこのような時代ごとの言語変化の傾向を踏まえ、ATOK辞書への反映を行っているほか、最新のことばにも対応できる「ATOKキーワードExpress」機能を追加するなど、より使いやすい日本語入力を目指して日々開発をかさねています。

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Update:2012.03.22